銀河鉄道 Another Journeysレドリルアドベンチャー

−前回のあらすじ−
　謎の船により攻撃を受け，痛手を負った機関車を応急的に
　修復すべく惑星キーアデスへと向うのであった。

第001話 旅立ちという名のレクイエム (その1)

(惑星キーアデス)

街にはビルが立ち並び，道には人があふれ，活気に満ちていた。
そんな中，人をうまくよけて疾走する少年がいた。

少年　　「はいよっと，ゴメンよ〜っと，そりゃ！」

彼はパンを大事に抱え，右へ曲がり，左へ曲がり，誰かを撒いているようだった。
少し遅れて，二人の警官が走っていく。
しばらくすると，道のいりくんだ場所へさしかかった。

少年　　「へへっ，ここいらならまかせとけってんだ」

少年はそのまま，いりくんだ道を入っていった。
警官は，とまどいながらも追いかけていく。

少年　　「よし，まだだな。こっちだ！」

うまく警官から見えない場所を左に曲がった少年。
警官は見失った少年をさがしている。左か，右か…。

警官Ａ　「…？ どっちだ？」

警官Ｂはあたりを見まわし，なにかを調べている。
顔にあるメーターのようなものが，キラリと光ったかと思うと，
左の道を指差した。

警官Ｂ　「こっちだ！」

少年と警官のおいかけっこは続く。

少年　　「はぁ，はぁ，はぁ，はぁ，……くそぅ，今日はしつこいな…！」

少年は，いつもより多く走っていたせいか，だんだん息が上がってきた。
目の前に，また曲がり角がみえた。

少年　　「次は…右！」

右へ曲がった少年は，その瞬間，しまった！と思った。

少年　　「あ……く………！ ちくしょう…袋小路……！」

だが，警官はもう近くまできている。声が聞こえるのだ。
戻れば，みつかってしまう。
彼はつかれていて，もはや撒く以外に逃げ切る手段はなかったのだ。

少年　　“くそ，どうする…どうする…！”

少年はあたりを見回した。
ふと，袋小路のすみの方に，台になりそうなものが置いてあるのに気が付いた。
そして，塀の上のほうを見て，そしてもう一度，台をながめた。
少年は足を台に乗せ，塀の上へ力の限り飛び上がった。
なんとか塀の上へ上ることができた少年は，塀の向こうを見た。
塀の向こうは，土手のような草原のような場所で，さらにその向こうにはバラックが
立ち並んでいた。だが，塀と地面はかなり高い。少年は躊躇していた。

少年　　「アイツラまだ気が付いてないな……でも……高いな……
　　　　　………………………………………っっっ，いちかばちか！」

思い切って飛び降りる少年。
二人の警官は，そんな少年の行動も知らず，突然消え失せたことに驚いていた。

そんな逃走劇を遠くから見ている人物がいた。
ホテルの非常階段から，双眼鏡で…。
黒服の髪の長い女性のようだ。
少年が逃げ切ったのを確認すると，すーっとホテルの中へ消えていった。


(キーアデスセントラルステーション)

ここは，惑星キーアデスで一番大きい駅だ。
惑星外へでる列車はすべてこの駅から発車する。
この駅内にある管理室内で，突然，緊急ブザーがなりだした。

職員　　「な，なんだ!? ………………!! なんだって!?」

驚いた職員は，すぐさま駅長室へ電話をかけた。

職員　　「え，駅長！ 大変です。
　　　　　銀河鉄道の……超特急から緊急停車の緊急信号が……」
駅長　　「なに！ なんだって超特急がこんな星に……
　　　　　このあたりでは超特急はグレインに停車するはずだ。
　　　　　なにかの間違いではないのか!?」
職員　　「いえ，キーアデスを指定しています。間違いありません」
駅長　　「……そうか……では…キーアデスには超特急の停車施設はない，
　　　　　引き返せと伝えるんだ！」
職員　　「え？ あ，はい。了解しま……あ！」
駅長　　「どうした!?」
職員　　「銀河鉄道管理局から通達です……
　　　　　銀河鉄道法による緊急停車が強制執行されました……」
駅長　　「停車させるしか道はない……か…しかたあるまい，9番ホームをあけたまえ。
　　　　　次に9番ホームへ入る予定の列車は，別のホームへ誘導するんだ。
　　　　　あとは，君にまかせる。
　　　　　私はこれから，この件に関して市長と話をしてくる」
職員　　「は，了解しました」

駅長　　「超特急か………まずいな………」

駅長は，深くため息をつくと，市長へ連絡をした。


(バラック)

さきほど塀の上から，見えていたバラックである。
少年は，ここを歩いていた。自分の家へ向っていたのだ。
自分の家の前で，パンを抱え直して，さっそうと家の中へ入っていった。

少年　　「母さん，母さん！ パンだよ，食べ物だよ。
　　　　　お腹減ったろう。さあ，食べよう」

母親からの返事はない。少年は，母親の側へ近づいた。

少年　　「母……さん!?」

母親は，すでに生きたえていた。
何者かに殴られた跡があり，まわりに血がとびちっていた。

少年　　「母さん……ちくしょう，誰がこんなことを……」

その時，入り口のほうから声がした。

警官Ａ　「どうだね，少しは反省したかね」

先ほどの警官が，警棒を手に持ち，入り口に立っていた。

警官Ａ　「死をもって償ってもらった。
　　　　　子供のしたことは，親に責任をとってもらわなければな」

その顔に怒りを込めた少年は，叫んだ。

少年　　「お前らがやったのか!!!! お前らが母さんを殺したのか!!!!」
警官Ａ　「だったらどうした？ 
　　　　　盗みを働くようなゴミを育てたんだ，当然，死刑だよ」
警官Ｂ　「ククククッ」
少年　　「ふざけるな，満足に食料もないのにっ，
　　　　　お前らが，お前ら機械化人が俺達から食料を奪ってるくせに！」
警官Ａ　「ふぅ，わかってないようだな。
　　　　　貴様らのような虫ケラにはもったいないんだよ。
　　　　　だがな，エサをやらなければ，死んでしまうからな。
　　　　　だから，エサをやっているだろう？」
少年　　「くそう，なにが虫ケラだ，なにがゴミだ，なにがエサだっ！
　　　　　俺達生身の人間をなんだと思ってやがる！ふざけるな!!」

少年は，こぶしを握り締め，渾身の力で警官へ殴りかかった。
警官は少年を軽くあしらい，持っていた警棒で少年を殴ると，少年はそのまま地面へ倒れた。

少年　　「うぐ…くそう…」

警官は，倒れた少年をさらに殴る。
二人の警官は少年をしばらく殴った後，

警官Ａ　「本来ならば，ゴミも排除すべきなんだがな。
　　　　　大事な労働力だ。
　　　　　殺されないだけでも，ありがたいと思え。ハハハハ…」

こう言って，そこを立ち去った。

少年　　「ちくしょう……ちくしょう………」

少年は握り締めたこぶしを，涙で濡れた地面にうちつけていた。
怒りと悔しさと，なにもできない自分のふがいなさを，ただ，地面にぶつけていた。

惑星キーアデス。
この星では生身の人間は不当な扱いを受けていた。
支配者階級はすべて機械化人であり，完全に機械化人優勢の差別的政策を
行っていたのである。
生身の人間には満足な食料も供給されず，低い賃金で重労働を課され，
町外れの荒れ果てた土地に建てられたバラックで生活を強いられていた。
満足な食料も買うこともできず，病気や飢えで倒れる人があとをたたなかった。
少年の母親も例外ではなかったのである。
少年は母親と二人暮らしだった。
働き手がなくお金のないことを知っていた少年は，病気の母親のために食料を
盗んできたのだ。

フォォォォォォォォ………

少年　　「あ…れは………」

空から聞こえたその音の正体を確認する間もなく，少年は意識を失った。

【第002話 へ つづく】

−次回予告−

少年を襲う深い悲しみ，そんな彼の前に現れる謎の女性。
その時，少年は意外な行動をとった。
次回，第002話は「旅立ちという名のレクイエム(その2)」です。