マンガの主人公が見た目で万能的特徴のないキャラだと、脇役が増えるにつれてだんだん影が薄くなるというのがよくあることですが、HUNTER×HUNTERはことあるごとに主人公を前面に出してきたこともあり、それをあまり感じさせず、主人公メインの話になっても楽しく読めています。
主人公であるゴンというキャラクターは、自分の目的を果たすために無我夢中になれ、自分の納得した上でという条件付きで手段を選ばず、目的を果たすと結果はどうあれ満足してしまう性格をしている。
たとえば、ハンター試験の最中、会長とちょっとしたゲームをした。会長のもつボールを奪う事が出来たらハンター資格を与えるという会長の提案にのったのだが、途中で右手などを使っていないことに気が付き、次第に目的が「会長に右手を使わせる」になってしまう。最終的に右手で攻撃を受けてしまい、勝利宣言して気絶してしまうのだが、その際に会長は「主旨かわっとるがな」と一言。ボールを奪う事、ハンター資格のことはゴンにとっては途中からどうでもいいことになってしまっている。
そんな彼の性格のことはまわりの親しい人間もわかっているのだが、表層的な部分だけではなく本質に気付く人物も登場した。
ビスケが第一級殺人犯であるビノールトを相手にゴンとキルアに修行をさせるが、修行の末、ビノールト自身は二人に勝つことを断念する。そしてゴンは修行につきあってくれたビノールトに対して素直に礼を言うのだ。そんなゴンに対してビスケは
「相手は第一級殺人犯だわよ?」
と聞くのだが、ゴンはそんなことは気にしない。そしてビスケは心の中で、
「あんたはフローレス ゆえに危うくもあるんだわね」
と心配する。
目的さえ果たせればそこに存在する善悪や過程はどうでもよくなってしまうゴンの性格は、その後、爆弾魔との戦いでも発揮する。爆弾魔ゲンスルーの戦いでゴンは当初の目的を逸脱し、ゲンスルーに能力を使わせたいという欲求が生まれ、そのための手段に気付いてしまい、そして迷うことなくそれを実行してしまう。また、多くの人を殺した人物であるにもかかわらず、決して殺さずに相手を動けない状態にした上で、相手を気遣う場面もある。
ビスケ以外にも、カイトにもそれを思わせている。
キメラアントとの戦いの中でカイトがこういう戦いが続く…と言うと、ゴンがこんなことを言った。
「仲間をゴミって言うような奴等に同情なんかしない!」
それに対してカイトは
「それが危険なんだ、仲間想いの奴がいたらどうするんだ…?」
と思った。
これらの伏線のようなものは、その後に登場した人間と同じような感情を持ち、人との共生の道を歩むことを選んだ者達の登場で回収されたように思えた。しかしそれはまだ続いていた。
キメラアントとの最終決戦のために人間たちがとった突入方法のせいで、王と軍儀をしていた人間のコムギが致命傷を受けてしまう。王は部下であるネフェルピトーにコムギを治すように命じ、戦いの場へと赴く。王にとってはエサとしての存在でしかないはずの人間に対して、コムギとの軍儀を通して“愛しみ思いやる”感情が生まれたことで発生した出来事だった。そして、その結果、ゴンにとってはありえない光景を見ることになる。
少し話を遡る。
ゴンたちはネフェルピトーと過去に会っている。その際、戦いを避けられないと判断したカイトが残り、ゴンとキルアは逃げるのだが、カイトはネフェルピトーに殺されて傀儡とされてしまう。そんな変わり果てた彼の姿を見たゴンは、怒りを漲らせ、カイトを元に戻すことを決意する。ゴンにとってネフェルピトーは倒すべき仇敵であり、カイトを元に戻す為の手段だ。
そしてゴンは宮殿に突入し、ネフェルピトーがいるであろう場所にたどり着いた。そこで見たものは、ネフェルピトーと、念で何かをされている少女の姿だった。
現在のネフェルピトーにとって王の命である“コムギを救うこと”がすべてであり、それが叶うならすべてを捨ててもよいと考えている。敵意を剥き出しにするゴンに対して、コムギを救うことだけを懇願し、その後は何でも言う事を聞くとまで言わせている。憎むべき敵でしかなかった相手の、想定していなかった言動にゴンは困惑する。はじめはその言葉に信用しないが、ネフェルピトーの覚悟にその言葉に裏がないことに気付く。そしてゴンはどこにもぶつけられない怒りをキルアの言葉でなんとか押さえ込み、ネフェルピトーがコムギを救うことを承諾する。
これまでにゴンをきちんと描いてきたことで、その伏線がネフェルピトーとの対峙が効果的になっていると感じられる。ある意味、ここに来て伏線の集大成になってきているというべきだろうか。しかしこれはまだはじまったばかり。まだゴンにはカイトが残されてる。ゴンの最終目的は、カイトを治すこと。そしてゴンの性格は、目的さえ果たせばそれで満足してしまう。今後どういう展開になるかわからないが、仮にカイトが治されたら、ゴンはその後どうするのだろう。そう思うと、読者の少し斜め上をいってくれる作者に期待せざるを得ない。